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体験者レポート 

何物にも代え難い、伸びやかな自然の中で暮らす喜び

 
2021年に山梨から移住された田路様ご夫婦。音楽と自然を愛するお二人が選んだのは静かな山の中にある広い土地付きの物件でした。
ここを拠点としてリモートワークを行いながら、合計500坪強もの地続き農地で自然農での作物作りにも取り組まれています。
緑の草木が少しずつ赤や黄に色付き、秋の訪れを感じさせる穏やかな季節にお住まいへ訪問させていただきました。

――移住先として『岡山』を選ばれた理由は?
ご主人の和秀さん(以降、和秀さん):何千坪という土地を買いたくてあちこち探しましたが、それぐらい広い面積の土地ってなかなか無くて。
奥様の沙織さん(以降、沙織さん):兵庫や広島にも安い物件はありましたが、自分たちの考えていた、『広い土地』『近隣からの距離が離れている』『手頃な価格』『日当たりが良いこと』という条件を満たしたのが岡山でした。
和秀さん:実際来てみた時、山というより、丘がずっと続いている感じが凄く気に入りましたね。
沙織さん:可愛かったよね、「ホントに岡(丘)の山やん!」って(笑)。
和秀さん:僕はふらふらと色んな所に行きたい人なので、道が多くて、かつ様々な方面に行ける自由さが良かった。
沙織さん:2人で音楽をやっているんですが、車中泊で巡る日本ツアーの時に九州へ行ったりとか、山梨や長野の友達に会いに行くにも動きやすくて便利だなぁと。空港も近いですし。
和秀さん:「人工物から離れた、自然で満ちた土地に住みたい」という気持ちがありました。
沙織さん:自然に飲み込まれているような、人の手が加えられていない雑多な雰囲気に凄く安心するんです。自分たちはそういった自然が好みなので、岡山は結構気に入っています。農業も自然農でやっていて、『自然から作物をいただき、自分たちが排出したものを自然に戻して循環させていく生活』という自分たちの実験を、気儘に自由に、のびのびできる環境が欲しかった。それにここって、周りに広葉樹が多い気する。秋も冬も楽しくなってビックリした!
和秀さん:広葉樹が多いのも岡山に決めたポイント。「木に葉っぱがない冬の美しさもあるんだ」と、ここに来て初めて知りました。

――この物件を購入する際、驚いたことがあるそうで。
和秀さん:契約を明日に控え、ここに前泊した時のことです。朝起きて「今日からここで暮らすのか~」と思った矢先に「ブォ~~~~~ン!!!」って音が響いてきて(笑)。山の向こうにサーキット場があるんですが、内見に来た時はちょうど休みだったらしく、ここまで音が届くなんて思ってもいませんでした。
沙織さん:私が起きたら、彼が急に「結構な問題が発覚した」って(笑)。これから契約なのにどうしよう、って。
和秀さん:物凄く迷いましたが、この家と土地を買って「これから、自分達のしていきたい暮らしを実現するんだ!」というワクワクした気持ちを信じて、一歩踏み出すことに決めました。サーキットの音は正直今でも気になる時はありますが、それよりも引っ越してきたことで得た喜びの方が大きいので、あの時、勇気を持って買うことを決めて良かったと思っています。


▲縁側から見る豊かな自然風景。山を越えてレースカーの音が届くなんて、想像もできないほどの長閑さです。

 

――こちらへ移住して大変だと感じたことは?
沙織さん:ここに引っ越してからは薪で焚いたお風呂に入っているんですけど、最初、「毎日できるのかな」って凄く不安でした。でも続けてみると、例え「めんどくさいなぁ」と思っていたとしても、火を見ていると元気が出るっていうか、エネルギーが湧いてくるんです。それに、匂いも凄く良い!薪で焚いたお風呂っていいですね、五右衛門風呂に出会えたことは人生でとても大きい気がします。不便ではあるけれど、やってみたら便利さとは比べ物にならない感動があって面白いです。
和秀さん:いずれ、薪で焚く風呂を自分で作るつもりだったので五右衛門風呂であることにこだわりはなかったのですが、自分で作る前にこういう体験ができたのはラッキーでした。今は元々あった薪を消費しているだけの状態なので、これからは自分たちで薪割りとかしていかないといけない。だけど僕たちは敢えてそれを選んだのだし、大変だからこそ元気になる。
沙織さん:買い物なども25分とか掛かりますが、それまでの道も楽しいので嫌な気持ちになったことはないです。その辺りを散歩するだけでも、栗やアケビにムカゴに柿に~・・・って色んなものに出会えるし、日々自然からの恵みを凄く感じています。不便な生活の方が、体を動かしていて健康になれる気がしますね。
和秀さん:今は便利な時代で、これからもどんどん便利に向かって行くけれど、その中で失っていっているものがとても多いと感じています。僕たちはこれから決して楽ちんではない暮らしをしようとしている、苦労とかあるだろうけど、でもそのつもりでやっているから「大変だ」とは思っていないですね。

  
▲物件周りに付属している、合計550坪強の地続き農地。
大根やほうれん草・そら豆・空芯菜・春菊・カブ等々、数多くの作物を自然農で育てられています。


――自然農で農業をされていると伺いましたが、鹿・猪などといった動物は出ますか?
和秀さん:出ます出ます。ここは彼らのテリトリーなので、夜とか毎日居ますよ。玄関を出ると「ズササササーーー!!!」って物音がしたりとか(笑)。
沙織さん:子鹿が来たこともありますよ。離れの所にゴーヤがあるんですが、その近くの葉っぱをモシャモシャ食べてて。子供だからまだ警戒心がないのかな?じーっと見てたら、その内去っていきましたけど。・・・あ、そういえば1つ困っていることがありました。家の際に可愛いお花とかを植えたくて穴を掘ってみたら急に「ズボーーッ!!」って抜けて!試しに手を入れてみたら、あっちにもこっちにも通り道が出来ていて。ここに住んでるアナグマの仕業みたいです。対策としてはやっぱ、駆除する・・・って形になるみたいですね。
和秀さん:でも「天然のものを一時的に駆除したところで・・・」という気持ちがあるし、しかも、どんな方法を用いるかによりますけど、僕としては化学的なものを使っての駆除はしたくない。
沙織さん:二階の物置みたいな所に、こぶし大ぐらいの蜂の巣が出来たんです。対策について調べてみたら、注射みたいな薬剤で殺したりするみたいで・・・2人でどうしようかぁって。でも、冬には女王蜂だけ残して死んでしまうみたいなので居なくなった後に取ろうと思っています。
和秀さん:作物を守る柵もホントはしたくなかったんですけど、流石にほとんど食べられちゃったら作る意味も無くなってしまうし(苦笑)。
沙織さん:虫とか動物とかにしてみれば「ウチらの土地やで、って言ったって知らんがな」って感じだし、さっきのアナグマからしても「僕らが先に住んでたよ~」って話で。
和秀さん:それを、こっちが勝手に「出て行け!」ってするのは違和感があって・・・。
沙織さん:自分たちは「自然と共存したい」って気持ちがあるので、何かあった時はその度に問題と向き合って、毎回迷って、一回一回どうするか2人で話し合って決めています。動物との付き合い方っていうところでは大変かもですね。

アナグマの堀跡。
思ったよりも深く、ちょっとした落とし穴のようです。

 

――『自然を大切にする』、その考えに至るきっかけについて教えてください。
和秀さん:僕の生まれは大阪の都会の方でしたが、小さい頃から自然に対して色々考えて生きてきた気がします。中でもとても良く覚えているのが小学校の時に授業で習った原発の話で、「なんておかしなことを人間はやっているんだ」「何百年と(悪影響が)残り続けるものを次々に生み出す、そんな未来のない恐ろしいことを人間はやっているんだ」「今さえ良ければいいと思っているのか」と、子供ながらに絶望していましたね。
沙織さん:私は香川の『住宅地だけど、ちょっと走ったら田んぼとかの自然がある』って感じの田舎の出身ですが、若い時は「自然が大好き!」とかは特に無くて。東京に8年ぐらい暮らしていましたが、ホント都会って自然が無いんですよね。音楽中心の生活で、お金のためにフリーターをして、朝から晩までバイトして、ヘロヘロで帰ってきて・・・。東京に住んでいた頃にもそれなりに自然と触れ合っていましたが、ある時田舎へ帰った時に見た、笹の葉がサササーっと揺れる姿に涙が出て・・・そこで気が付きました、「私には自然が必要なんだなぁ」って。自然への感謝が生まれ、彼と出会って2人で住む家とかどうしようと話した時、お互いに「自然がある所がいい」と、東京の街中から郊外の一軒家へ、そして更に山梨の田舎へと移り住みました。山梨で暮らす内に「ただ自然を感じて暮らすだけではなく、人間である自分達の生活が今よりももっと“自然の循環の一部”であると肌で感じられる暮らしをしたい」と思うようになって。そしてその為には「より強く自然を感じられて、自由に実験できるような広さが必要だ」と気付き、ここへ辿り着きました。人間も動物だから、あまりにも自然と掛け離れた思考や暮らしをしていたら、心身ともに歪が生まれてしまう気がする――そういう感覚に気付けたのも、“日本一の都会”である東京に暮らしていた経験から来ているのかもしれませんね。

――現在の暮らしについて教えてください。
和秀さん:Webサイト制作の仕事で収入を得ながら、音楽活動をしています。他には、家の改修に耕作放棄地を開拓して自然農をしたり、果樹を植えたりもしていますね。以前住んでいた場所では打ち合わせで東京へ行くこともありましたが、山梨に住んでいる頃にコロナが流行り、それに合わせて世間的にリモートでのやり取りが必要になってきて。対面でのやり取りが必須ではなくなったことも、移住には良いタイミングでした。

  
▲和秀さんの仕事風景。野鳥のさえずりをBGMに、四季折々の自然風景をパソコン越しに眺める・・・。
リモートワークならではの、なんとも贅沢な時間です。


――「岡山の田舎に居ながらでも、東京や大阪の仕事ができる」、というのは良いことですね。ちなみに、現在の一日のスケジュールは?
和秀さん:毎日違います。日によって違いすぎるので、決まったスケジュールは無いですね。まず天気から始まる、と言っても過言じゃない。
沙織さん:「スケジュールは?」って聞かれて「日によって気儘です~」って答えられるのって、結構幸せなことかも。個人でやっている仕事ってこともあるし、勤めに行かなくて良い、自由さやマイペースさ・・・今の暮らしにたくさんのお金が要るって訳でもないから、余裕をもってゆったり暮らせています。今のところは彼が仕事をして稼いでくれているけど、ゆくゆくは音楽メインの生活に移行させていきたいですね。

  
▲田の字型の和室に並ぶ楽器たち。ご夫婦の多才な人柄が見えてきます。


――近所の方との交流についてはどうですか?
沙織さん:2人で考え、悩んだ末に、今は区に入らないでおくことにしました。区長さんには正直に相談させていただいていて、(入らないことを)ちゃんと分かってもらえています。
和秀さん:山梨では早く地域に溶け込みたい一心で、区の活動に積極的に参加していました。集落の方々が歓迎してくれているのを感じていたし、とても優しく親切にいろいろ地域のことを教えてくれてとても嬉しかったです。地元の方々の想いに応えたいと自分達なりに一生懸命に地域活動に参加して、楽しかった事も多かったのですが、今思えば頑張りすぎていた部分もあったなぁと。
沙織さん:区には入っていなくとも、近所の方々とはお互い困ったことがあれば助け合ったり、ほのぼの交流したり・・・と、程良い距離感で楽しくお付き合いさせてもらっています。地域との関わり方は人それぞれ、十人十色でいいんじゃないかな。「まずは自分達が充実した暮らしを送り、その上で自分達なりの地域の関わり方・貢献できることがある」と私達は思い、日々向き合っています。山梨での移住経験があったからこそ、地域と自分達との自然な関わり方が出来ていっていると感じます。

玄関先で語らうお二人。
   
土間玄関に置かれた、近所の方からのいただきもの。
こういった風景は田舎ならではのものですね。


――移住を考えている方へのアドバイスをお願いします。
和秀さん:「引っ越す」ってことは、今よりもっと良くなりたいから引っ越す訳じゃないですか。『これから自分が暮らしていきたい生活』ってのを考えた時、本当に大切な部分や未来をどうしていきたいか、これからの自分にとって必要なものを明確にした方がいいです。ちょっと害獣が出て「あー!!!」って思ったり、サーキットの音に「想像と違う」って萎えたり後悔したり・・・そういう嫌なこと・予想外なことがあったとしても、「今後、自分はこう生きていきたい」「自分の幸せはこれなんだ、それを得るために移住するんだ」っていう根本の大事な部分さえブレなければどうとでもなりますよ。「不便を楽しむ」って目線があった方が、田舎暮らしは失敗しないと思います。
沙織さん:私自身、自然を感じられる生活に身を置くことをめちゃくちゃオススメします!田舎ってやっぱり、東京とは全然空気が違うんです。同じような暮らしをしていても、何か肌で感じるものが違っていて。不便を楽しむ、不便だからこそ楽しい。ひとつひとつ大変なことに向き合う時、“自分”ってものがどんどん深くなって、便利さと引き換えに失っている何かを取り戻していくみたいな・・・それが日々の幸せに繋がっていく気がします。人それぞれ求める部分は違う、だからこそ「どんな家や環境が自分にとって大切なのか?」「何をもって自分は幸せを感じるのだろうか?」、それを深く追求することが大事だと思います。


▲2匹の愛猫と一緒に。自然とこぼれる笑顔は今の幸せな暮らしを体現しているようです。

 

Takkiduda

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【取材後記】
落ち着いた雰囲気の和秀さんと天真爛漫な沙織さん。
仲睦まじいお二人が奏でる音の根源は『自然に対する愛』――取材中にもその想いを言葉の端々からとても強く感じました。
不便だとしても、何にも縛られず、自由に、気ままに、自然を慈しみながら暮らす・・・それはなかなかできることではありませんが、“実験”と称したお二人の生活から、叶えるための答えが見えてくるような気がします。
この度は取材に応じていただき、ありがとうございました。(2022年11月取材)

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