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山暮らし体験レポート 

美作の山の中でオフグリッド生活中!森から学び、森と生きる暮らしとは

 
東京でプロタップダンサーとして活躍してきたASAKIさん。様々な経験や活動を経て、現在は美作の山の中でのんびりとオフグリッドな暮らしをされています。
オフグリッドとは『電力会社の送電網(グリッド)に頼らず、太陽光発電等で電力を自給自足する』生活のこと。
電気はもちろん、水もガスもないこの地でASAKIさんはどのような生活を送られているのでしょうか?現在の暮らしについて取材させていただきました。

以前から「山に住みたい」という気持ちがあったのでしょうか?
私は自然が物凄く好きで、自然に対する憧れみたいなものは東京に居た頃からありました。2011年に起こった東日本大震災でボランティアとして石巻へ泥掻きに行ったのですが、その時、「人が作り出すものは自然に還りづらくて一番厄介だな」という思いを抱きました。その後、震災をきっかけに「みんなで節電しよう」という流れができましたが、暫くすると従来通りの電気使い放題な風潮に戻ってしまって「なんだか同じことを繰り返しているな、生活環境を変えたいな」と考えるようになりました。石巻のボランティアでお世話になった団体が船で世界一周をしていることを知ったので自分で調べてみたところ、船で回るよりも自分で航空券などを全部手配した方が同じ値段でかつ好きな所に行けるとわかり、半年間、「世界の色んな所・行きたい場所へとにかく行こう」と世界を巡ってきました。豊かな自然や古代の遺跡などを沢山見て、触れて、経験して、そして東京へ戻ってきたのですが、世界を回って気が付いたのは『世界の中でも優れた日本の食の凄さ』。日本へ帰ったら新しいことを始めたいと思っていて、自分でも食を作れるよう農園を借りたりなどして色々とアンテナを張っていると、美作市の上山で行われているという棚田再生の話をテレビで知りました。私、倍音の声とか、そういうのが結構気になるタイプなのですが、出演して話をされていた方も倍音の出る声で、話は元よりその声質にも興味が湧いて。「面白いな、この人に会ってみたいな」と思っていると東京に来られる機会があると知り、その会に出席してお話しをする機会をいただきました。私が「タップダンスをやっているんです」と話をしたら「タップダンスをやってみたい」と言ってくれたので「じゃあ(岡山へ)行ってみようかな」と、そういった流れで岡山へとやって来ました。

元は東京でタップダンスのクラスを持たれていたASAKIさん。
現在ASAKIさんの指導を受ける生徒さんの中には、備前市や岡山市などの遠方から来られている方もいらっしゃるそうです。

 

◆この山へ住むことになったのは?
岡山へ来て暫くは地域おこし協力隊の方の所で居候をさせてもらっていたのですが、隊の手伝いをしている時に「電気もガスも来てないけど、山(現在住んでいる場所)を使っていいって話があるよ」という情報をいただいて。電気もガスもない場所なんて世界には沢山あるから、「それでも全然OKです」と、そうしてこの山を年1万円で借りることになりました(※)。併せて、別の地域おこし協力隊の一人からも「電力実験でソーラーパネルとか調達するから使ってくれないかな」という話をもらい、ソーラーパネルで発電するってのも面白そうだなと、現在のオフグリッドな生活を始めることになりました。
(※)注:当初は賃借契約でスタートしましたが、その後、元の所有者様とASAKIさんの間で売買契約を締結し、現在はASAKIさんの所有地となっています。

 

◆『森の芸術大学AUN』はどのようにして生まれたのですか?
「移住者が増えてくれた方がいいな」という考えでいたので、この場所にタップダンスのスタジオを造り、できるだけ楽しい発信ができるような場作りを整えてきました。ダンスの振り付けを考えて、レッスンして、動画で共有して、「どうやったら沢山の人に踊ってもらえるかな」と色々考えて。人集めの為に全国を回ったりもしました。その活動の中でテレビに取り上げてもらったのが『棚田1000人達歩(タップ)』。その名の通り、踊る場所は棚田。耕作放棄されて今は使われていない所をステージにしたら地域のアピールになるのでは、と。最初は上山の棚田で開催、その後、和気町や久米南町などにある棚田でも行いました。玉野市の方から「玉野で1000人達歩やりませんか」とのお声掛けをいただいて、瀬戸内国際芸術祭のオープニングアクトを飾ったりもしましたよ。私自身、上山の棚田で1000人達歩を行った時に「ブロードウェイに行く」という目標を掲げていたんですね。有言実行しないと気が済まない質なので、集まった皆でニューヨークへ行ってストリートタップ公演を敢行して・・・そこで、自分の中で1000人達歩シリーズは一区切り。その後、今度は「森から学ぶ時間を人が作った方がいいんじゃないか」「森に来ることで、森から何かを学んで欲しい」という思いに至り、『森の芸術大学AUN』という場所を作りました。ここには植林はあまりなく、雑木などの手付かずの自然がそのままに残っていて。電気やガス・水道が来ていない生活の中だからこそ、気付けるものがあると思います。私自身も、こういった自然の中で生活できていることが楽しいと感じています。

校名の『AUN』は元々『ASAKI’s University』の略称。
同時に、万物の初めと終わりを意味する『阿吽』も込められています。

 

◆この土地には元々建物はあったのですか?
山小屋がひとつだけありました。住む話をもらった時も「そこを家として使っていいよ」との話だったので。住み始めてから周りを少しずつ開拓して、自分で他にも色々建物も作って。(建築に際して)設計図はあまり作りません。大体のイメージで、あまり切らず、材の寸法に合わせて作っていきます。だから、建築というよりは秘密基地を作っているような感覚ですね。


▲ASAKIさんお手製のツリーデッキ。清々しい自然のエネルギーを感じられます。


◆電気やガスなどが無いと聞きましたが、どんな生活を送られていますか?

ソーラーパネルでの発電に加え、車のシガーソケットで充電できるバッテリーがあるので、電気はこの2つで十分賄えます。水は湧き水を汲みに行っていますね。汲める所、結構あるんですよ。お風呂には殆ど入らなくて、お湯で体を拭くだけだったり、近場の温泉へ行ったりとか。 現代になる前の感覚で生きたら面白いんじゃないかな、と私は思っているんです。電気なんてなかった昔々の、江戸時代よりもっともっと前はこんな生活だったんじゃないかな、と。便利になった現代の目線で見るとこの生活は大変だと感じるかもしれないですが、人が生きる原点というか、そういう感覚で生きようと考えたら大変だとかは思わないですね。

生活電力を賄うソーラーパネル。

ドラム缶風呂が置かれたこの場所はASAKIさんがこの地で二番目に造った建物。
底にスノコを沈めて入浴。側面は熱くならないそうです。

高さがあるため、入る時は奥にある梯子を使います。

知人から譲り受けた充電式洗濯機。
ASAKIさんは洗濯が大好きらしく、存分に活用中!

焚き火の揺らぐ炎の側で、ロッキングチェアに腰かけて
ゆったりと過ごす・・・素朴ながらも贅沢な癒やし時間です。

 

◆収入については?
地域の物流を担う会社で、早朝と夕方に働いています。また、生徒さんがここにレッスンに来てくれているので収入に関してはその2つから。基本的に、お金はあまりかからない生活です。東京に居た時は沢山の楽器や機材があって、月10万円の一軒家を借りていましたがその頃は本当に大変でした。

ASAKIさんの活動を支える楽器や機材たち。
こちらの部屋にはミニキッチンもあります。

 

◆今後の夢や思い描いているビジョンは?
「リラックスできたり、森や自然を楽しめる場作りを行うこと」ですね。あとは、世話をしている猫たちがのびのびした暮らしを送れていたら嬉しいです。猫って可愛さはもちろん、凄く自由なところやツンデレなところとかが好きで。今の会社で働く前にバイトをしていた所でネズミ取り役として猫が飼われていたんですが、糞まみれの場所に餌だけ入れられているような生活をしていて・・・その姿があまりに可哀想で、その子を引き取らせてもらったのが最初。現在は12匹の猫がここで暮らしています。最初に引き取った猫はその境遇からか人間が凄く嫌いな子で中々懐いてくれなかったのですが、少しずつ心を開いてきてくれた時は嬉しかったですね。同時に、なんだか人間の罪深さを感じました。

  
▲今回の取材中に様々な場所で見かけた、思い思いに寛ぐ猫ちゃん達。
移動するASAKIさんの後ろをトコトコ追い掛ける姿は愛らしく、とてもほっこりとした気持ちになりました。


◆移住を考えている方へのアドバイスをいただけますか。

私は「住む場所ってどこでもいいんじゃないかな」と思っているタイプで、どこに住むかというよりも『自分が何をやりたいか?』ということの方が大事だと考えています。もしも音楽でメジャーデビューをしたいといった夢を持っていたのなら、ここよりもっといい場所があるのかもしれない。私はやりたいこと全部やって、余生をのんびり過ごしたいって気持ちがあるからこういう生活でも全然。いつも、人間と森との違いを考えるんです。森って基本的に受け身じゃないですか。例えば、人間が木を伐る時、何も言わずに伐らせてくれる。切られるなんて嫌ですよね、人間で例えたら。でも森は人間の勝手で伐られても何も言わない。優しいな、その寛容さが凄いな、と思っていて。人間は「こうでないといけない」という考えやこだわりが出てくればくるほど寛容で居られなくなる。寛容になりたいと思っても森のようにはなれない。ずっと、受け身では居られない・・・そんな風に、人間と森の違いを面白く感じています。都会に居ると『人間が作ったもの』しか目に入ってこないので、森の中にいると思考や感じ方が変わりますね。森から学ぶこと・気付かされることはとても多いです。


▲カウンター席から見る、澄んだ空気に満ちた森の風景。その穏やかさに心が洗われます。

 

●森の芸術大学AUN
●URL:https://aun.amebaownd.com/

タップダンスやドラムのレッスン、キャンプ、フィールドワークなどなど。
日々の喧騒を離れ、大らかな森がくれる癒やしの時間を過ごしませんか。
ご訪問の際は こちら から事前のご連絡・ご予約をお願いいたします。

 

【取材後記】
電気や水をいつでも自由に使えることが当たり前の現代。その視点から見るとオフグリッドな生活には不便さが過りますが、取材を通じ、「便利ではないからこそ」の気付きや面白さがあるのだと感じました。
ちなみに取材時は冬の手前でしたが、夏が近付く現在(2023年6月)、なんと冷凍庫を導入されたそうで!
その使い心地はいかに?とても気になるところ・・・。
お忙しい中での取材のご協力、誠にありがとうございました。(2022年11月取材)

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